コミュニケーションの目的の1つに「相手に要求を伝える」というものがあります。当然、ときには交渉をして、こちらの思惑通りに動いてもらうことも必要です。さて、みなさんは交渉のコツをご存知でしょうか。これには大きく2つのポイントがあります。1つは相手の反応を見ること。そしてもう1つは相手の判断力を低下させることです。今回は、判断力の低下させる方法の例についてお話していきたいと思います。
行動経済学者であるアリエリーは、雑誌の定期購読についての実験を行いました。最初に行ったのは、59ドルを支払ってWEB版のみを読めるようにするか、それとも125ドルを支払って印刷版とWEB版の両方読めるようにするか…というものです。この結果は68名がWEB版のみ、32名が印刷とWEB版のセットになりました。
さて、ここから印刷とWEB版のセットをもっとたくさん販売するためにはどうすれば良いと思いますか?実は、3つ目の選択肢を増やしただけで、その結果が劇的に変化したのです。その3つ目の選択肢とは「印刷版のみ125ドル」というものです。なんと、印刷版のみを、印刷とWEB版のセットと同じ金額に設定したのです。その結果、WEB版のみが68名から16名まで激減し、印刷とWEB版のセットが32名から84名まで増えました。ちなみに印刷のみは0人です。
なぜ、このような結果になったのかというと冒頭でお話した判断力の低下に原因があります。実は、人間は違うものを比べるというのがすごく下手な生き物なのです。そのため、比較したときに明らかに良いものがあると、人間はそこに飛びつきます。今回なら、印刷のみとセットの違いが明らかですよね。値段が同じなのに受けられるサービスだけが違うからです。でも、WEB版のみについては、どちらとも価格の差を比較しにくくなっています。これが判断力の低下です。
このように人間の選択は、あらかじめ用意した選択肢の内容によっても大きく変化してきます。こうして人間の行動に変化をもたらすことができるのも私たちが発揮できる影響力なのだと思います。